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カフェ・サン・マルコⅡ 放逐の地、流謫の空、日常の崖、超常の涯、僕たちの心臓はただ歌い出す


過ぎ越しの少年 歩いてゐる 環百道路の向こう側 不気味に流れる根無し草 道草模様の漂流者 あゝ帰らざる故郷…… 棲めばエル・ドラド…… 記憶のギャラリーで迷子になって…… 愚者の漬物石と隠者の糠床……
by Neauferretcineres
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メモ帳
わてが最近、買うた酒 のコーナー
Kloof Street Swartland Rougeクルーフ・ストリート スワートランド ルージュ 南アフリカ赤ワイン
ふつうアフリカワインのラベルには動物やら何やらの生き物やら野生的な風景やらが
描かれてるものだけど、Mullineux(マリヌー)のこのワインのラベルは
夕暮れ時に一瞬見られる不思議な色合いの青空のような、淡い青の地に
控えめな金色で文字が記されているだけ。
そこがいい。
味は濃厚。空に憧れる土の浪漫と情愛、いささかの辛苦。

しかし秋の夜のことである。なかなか明け切りはしなかった――国枝史郎『八ケ嶽の魔神』

いよいよ今晩(9/14)、
envyOLEDICKFOGGY
ツーマン東名阪ツアー『DAWN HOPE TOUR 2025』
しかし秋の夜のことである。なかなか明け切りはしなかった――国枝史郎『八ケ嶽の魔神』_b0420692_14251952.jpg
前売りチケットはファミマの端末では買えないみたいなので、
ネットで申し込んでお買い求め下さい
第1戦、戦場は東京新宿。
夜明けの希望の光は幻であったのか、
それとも夜の闇にも輝く現実となって
我らの前に再び立ち現われてくるのであろうか?


それはそうと、根岸の明方は
どうであったろうか……。

国枝史郎『八ケ嶽の魔神』より

 もう夜は明方ではあったけれど、しかし秋の夜のことである。なかなか明け切りはしなかった。

 駿河守の下屋敷は森帯刀(たてわき)家の下屋敷と半町あまり距(へだた)った同じ根岸の稲荷小路にあったが、そこには愛妾のお石の方と、二人のご子息とが住居(すまい)していた。総領の方は金一郎様といい、奥方にお子様がないところから、ゆくゆくは内藤家を継ぐお方で、今年数え年十四歳、武芸の方はそうでもなかったが学問好きのお方であった。

 廊下をへだてて裏庭に向かった、善美を尽くしたお寝間には、仄かに絹行燈が点(とも)っていた。その光に照らされて、美々しい夜具(よのもの)が見えていたが、その夜具の襟を洩れて、上品な寝顔の見えるのは金一郎様が睡っておられるのであった。

 と、その時、きわめて幽(かす)かな、笛の音(ね)が聞こえて来た。いや笛ではなさそうだ。笛のような物の音であった。耳を澄ませばそれかと思われ、耳を放せば消えてしまう。そういったような幽かな音で、それが漸次(だんだん)近寄って来た。しかしどこからやって来たのか、またどの辺へ近寄って来たのか、それは知ることが出来なかった。とまれ漸次その音は寝間へ近寄って来るらしい。

 金一郎様は睡っていた。お附きの人達も次の部屋で明方の夢をむさぼっていた。で、幽かな笛のような音を耳にした者は一人もなかった。

 ではその笛のような不思議な音を、耳にすることの出来たものは、全然一人もなかったのであろうか?

 下屋敷の内には一人もなかった。

 しかし一人下屋敷の外で、偶然それを聞いたものがあった。

 他でもない葉之助であった。

 その葉之助は駕籠をつけてこの根岸までやって来たが紋兵衛の乗っているその駕籠が、森家の下屋敷へはいるのを見ると、しばらく茫然と立っていたが、やがて気が付くと足を返し、主君駿河守の下屋敷の方へ何心なく歩いて行った。

 駿河守の下屋敷と森帯刀家の下屋敷との、ちょうど真ん中まで来た時であったが、幽かな幽かな笛のような音が、彼の眼の前の地面を横切り、駿河守の下屋敷の方へ、走って行くのを耳にした。

「なんであろう?」と怪しみながら、彼はじっと耳を澄ませ、その物の音に聞き入った。音は次第に遠ざかって行った。そうして間もなくすっかり消えた。

 なんとなく気味悪く思いながら彼は尚しばらく佇んでいた。

「お、これは?」と呟くと、彼はツカツカ前へ進み、顔を低く地面へ付けた、と、地面に何物か白く光る物が落ちていた。そうしてそれは白糸のように一筋長く線を引き、帯刀家の下屋敷と、駿河守の下屋敷とを、一直線に繫いでいた。

「石灰(いしばい)かな?」と呟きながら、指に付けて嗅いで見て、彼はアッと声を上げた。強い臭気が鼻を刺し、脳の奥まで滲み込んだからで、嘔吐(はきけ)を催させるその悪臭は、なんとも云えず不快であった。

 何か頷くと葉之助は、懐中(ふところ)から鼻紙を取り出したが指で摘(つま)んで白い粉を、念入りにその中へ摘み入れた。それから静かに帰路についた。


 その夜が明けて朝となった。

 いつも早起きの金一郎様が、その朝に限って起きて来ない。お附きの者は不審に思い、そっと襖を開けて見た。金一郎様は上半身を夜具の襟から抜け出させ、両手を虚空でしっかり握り、眼を白く剝(む)いて死んでいた。

 これは実に内藤家にとって容易ならない打撃であった。世継ぎの若君が変死したとあっては、上(かみ)に対しても面伏(おもぶ)せである。

「何者の所業(しわざ)! どうして殺したのか?」

「突き傷もなければ切り傷もない」

「血一滴こぼれてもいない」

「毒殺らしい徴候もない」

「絞殺らしい証拠もない」

「奇怪な殺人、疑問の死」

 上屋敷でも下屋敷でも人々は不安そうに囁き合った。

 葉之助は自宅の一室で、鼻紙の中の白い粉を、睨むように見詰めていたが、

「若君弑虐(しいぎゃく)の大秘密は、この粉の中になければならない」こう口の中で呟いた。

「笛のような美妙な音(ね)! 不思議だな、全く不思議だ! 何者の音であったろう?」

しかし秋の夜のことである。なかなか明け切りはしなかった――国枝史郎『八ケ嶽の魔神』_b0420692_14494866.jpg

photo by Ricardo Gomez Angel


by caffe-san-marco2 | 2025-09-14 15:03 | 小説 | Comments(0)
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